9.耐久力のある小屋組み　　　２０１０年１２月２０日

　最近は１００年住宅と高耐久住宅とかのうたい文句の住宅が売られています。それは今の閉塞した日本を象徴する考え方のひとつでしょう。戦後の高度成長を象徴する一代で自分の棲家を創り消費する時代は終わりつつあります。ある意味戦前の日本的な健全な考え方に変化してきたのです。現在多く立てられている住宅は戦後の工法で工業的な合理性を追求して耐久的な部分についてはあまり研究されていません。また現在の建築家と技術者も１００年を超えるような建物を作った経験も実績もありません。私もその一人です。１００年前に作られ現存する木造住宅にはいろんな工夫が施されています。現在より優れた木工技術や自然の力を利用した考え方など、現在大学で新しい工法や法律を考える人よりも優れた考えや技術があったように私は感じます。
　私は建築家（私の建築家の定義は設計した建物が永久に存在する人）を目指していたこともあり建物の耐久力には大変興味がありました。自分の設計する建物を１００年以上残すためには最低限１００年の寿命が必要です。寿命と言っても建物はメンテンナンスや修理をせずに１００年も存在するのは無理と考えます。有名な国宝の木造建築も修理をしながら何百年も存在しているからです。１００年と言うスタンスを考えて建物を作る時に考えなければならないのは、少なくともそれまでに何度かメンテナンスや修理が必要です。１００年後に存在しうる材料や修理できる工法を考えなくてはいけません。１００年後修理しようとした時に屋根や床を支える梁の過半が腐ったり、シロアリに食われていた場合は修理は出来ません。すなわち建物の寿命です。昔の建物は必要以上の大きな梁を使ったり、煙でいぶしたり、風通しを考えたり現在のような便利な技術が無い時代に長く存在する建物を作っています。少なくとも先人と同じ考えで近い構造であれば昔の建物のような寿命が与えられると私は考えています。
　私の設計する木造建築は小屋組みを隠す天井はほとんどありません。屋根や床を支える梁やそれを受ける柱は出来るだけ露出して仕上げています。その理由として日本の夏は高温多湿です。一度濡れた木材は乾くまでにまた濡れると腐る方向に変化いていきます。また木材は密閉された状況で湿気を帯びるとカビや虫（シロアリ等）の餌食になります。
　大昔から世界の住宅はその地方の気候風土にあった方法や工法材料が使われ独特の文化を育んで来ました。わが国も木造建築では世界一の建物を数多く残しています。しかし残念ながら敗戦国の日本だけ住宅においては大昔から育んできた技術や文化をなくしていました。現在日本のハウスメーカーのほとんどは戦前までの日本特有の技術や考え方を無視した工業優先で合理的な工法を採用しています。　また法律では一度濡れたらダメになる合板が構造用合板として使用され、高耐久仕様にも使用しています。１００年を超える構造を考える場合は１００年の間に何度か事故（台風や地震）に合い、漏水や水害も経験しなければなりません。
　重要なのはその時にダメージが残らないような工法が必要だと私は考えています。小屋組みや構造材を露出させることにより一度濡れた木も乾燥しもとの強度や性能を取り戻します。また目視で建物を支える骨組みの状態を簡単に確認できる。木材に光を当てる事によりカビや虫から守ることも出来るからです。私が設計する木造建築の仕上げに構造材が露出しているのはこのような理由があるからです。これらの考えは日本の伝統的な木造建築の技術であり文化だと考えています。私もこの素晴らしい伝統的な文化の継承者の一人でありたいと願っています。

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